出店の成功に欠かせない商圏分析を簡単に行う方法

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あなたは自店の商圏を把握していますか?
これから出店を考えている店舗の商圏のことを十分調べていますか?

商圏を把握しないまま「何となくわかったつもり」で出店しているケースは多いもので、その結果、商圏と店舗のミスマッチ、売上予測と実績の乖離等が起こります。
売上が低迷すると、原因は商品や接客あるいは景気等と考えられがちです。これらも間違いとはいえませんが、店の土台といえる商圏を把握していない為に起こる様々な間違いが原因であることが多いのです。

このようなことを防ぐためには、自店の商圏を把握する為の分析方法を知ることが重要です。
今回は、今まで行ってきた多くの商圏分析の実績を元にした、簡単にできる調査・分析方法を解説します。

1.商圏分析とは

1-1.なぜ必要なのか?

店舗は一度出店すると、長期間にわたって周囲の限られたエリア=商圏の顧客を対象に商売をすることになります。出店後は、店の商品や接客のレベルを向上させることはできますが、商圏を自ら変えることはできません。
その為、できるだけ条件の良い場所に出店すべきなのは明らかでしょう。

では商圏の条件の良さを判断する基準は何でしょうか。
これは、商圏人口、交通状況、競合、車の導線等、多岐にわたりますが、商圏人口が多くても、道路や河川、鉄道等によって分断されていたり、人や車の流れが悪くて店へアクセスしにくかったりすると、商圏のポテンシャルを十分発揮させることが難しかったりします。競合店の存在や、店舗物件の視認性、駐車場台数や入り易さも大きく影響します。

このような複雑な状況を明らかにし、できるだけ成功確率の高い出店、開業が可能な立地を探さなくてはならないのです。そして、そのチャンスは出店の前だけなのです。

※既存店改装の場合
既存店改装を開店後5~7年に行う場合、この位の期間があれば商圏の状況は変化しますので、あらためて分析を行うべきでしょう。商圏の変化を改装方針に活かします。

1-2.商圏分析の手順

商圏分析は、地域→地区→地点に沿って、広いエリアから狭いエリアへと進めます。
最初から特定の不動産物件がありそれについて調べたい場合は、そこに出店するという「仮説」を検証するように、この流れに沿って物件を判断します。

この商圏分析は、数多くの商圏を見てきたコンサルタントならより精度の高い分析を行うことができますが、手順をきちんとふまえれば、店舗オーナー、開業予定者が自ら行うことができます。
外部業者に頼む最も大きな利点は「客観的に見ることができる」ということですが、それを自分に言い聞かせ、さらに率直な意見を言ってくれる身近な第三者の意見も積極的に聞く耳を持っていれば、客観性を補った分析も可能になります。

 

2.地域(商圏を含む広い周辺エリア)を決める

ここでの地域とは、ケースによって異なりますが、商圏(後で考える地区)の半径の5~7倍程度の範囲になります。

商圏マップ 地域

2-1.お客様としたい人が住んでいるような地域を探す

これから出店しようとする店はどのようなお客様をターゲットとしていますか?
このターゲット選定はとても大事なことで、菓子・パン店だけでなくすべての小売業、すべての商売にとって重要なマーケティング施策の基本です。 
ターゲット顧客像が明確になればなるほど、色々なことがクリアになってきます。

  • 店の外観や内装、色などはどのようにすればその人は気に入るだろうか?
  • 店の照明や音楽、ディスプレイは?商品の品揃えや色、価格帯はどうすれば気に入るだろうか?
  • どのような接客をすればその人は気持良く感じるだろうか?

このような店としての多くのことは、誰に商品を売るかによって決められるのです。その為、そのようなターゲット顧客が住んでいる地域を選んで出店することが重要になるのです。

では、これはどうやって調べれば良いのでしょうか?オープンデータと言われる政府や自治体等から公開されている情報では250m~500m四方での年齢別・性別の人口、世帯数を知ることができます。
また、年収情報等は行政区単位で公表されています。しかし、この段階ではこういった定量的な情報よりも、定性的な「雰囲気」「評判」等の情報が重要です。よく「あのあたりはこういった人達が多く住んでいる」「あの街はとてもお洒落で高年収の人が住んでいる」といった、誰もが身近で聞いたことがあるような話です。

こうやって「大体あのあたりの地域に出店しよう」と考えるのがまず最初の段階です。

2-2.将来性とポテンシャルのある地域を探す

ターゲット顧客が住んでいそうな地域ならどこでも無条件に良いという訳ではありません。将来性とポテンシャルから出店に値する地域なのかを見極めなければなりません。

  • 交通状況
    幹線道路、主要道路の交通状況等から、その地域は車での往来がしやすいのかどうかをまず把握します。車での行き来のしやすさは想像以上に大きな問題です。
    たとえ店舗自体では駐車場を確保せず自転車来店を中心にする場合でも、消費者は、あの付近は車で行きやすい、行きにくいなどの理由で行動するしないのと決めるものです。
    現在の状況だけでなく将来の道路開通状況も調べる必要がありますが、将来については役所の都市計画課に問い合わせれば、教えてもらえるか図面を見るかで知ることができます。
  • 商業施設
    ショッピングモール等の商業施設、ロードサイドの商業施設等は、集客要素として間違いなく大きいものになります。施設内テナントや隣接していなくても、そこに行き来する道路沿いなら来店し易くなります。
    今後の開店計画もできる限り情報を収集しましょう。公表されていない情報でも不動産業者はいち早く入手している場合がありますので、物件探しに併せて探ってみましょう。
  • 商圏のポテンシャル
    その地域の人口が多いのか、今後の人口増加が見込めるのか、という点を調べます。ただ、今後の宅地開発計画で人口増加が見込めたとしても、かなり先であれば評価は難しいでしょう。そのような計画であれば、計画通りに開発と不動産購入が進むかは不確かだからです。
    ※過度の期待は禁物
    開発投資の収益予測にディスカウントキャッシュフローという 方法があります。これは、将来になるほど予測が不確かになるというもので、1年先なら見込んだ収益(キャッシュフロー)の80%が大丈夫と考えるが、2年先なら50%、3年先なら30%...というように、どんどん見込みを下げていく考え方です。それほど開発投資は将来が信用できないものなのです。不動産開発への過度の期待は禁物です。

 

3.出店に適した地区(商圏)を絞り込む

地域が決まれば、その中で地区に絞り込んでいきます。これが一般的に言われる「商圏」で、店の売上の70~80%を得る消費者が住むエリアとなります。
実際の商圏選定作業としては、出店候補場所はこのあたりだという仮説を設定し、その商圏を検証するという方法が良いでしょう。地域を見て回る中で「この通りの両側100~200mのあたり、この街区1丁目の道路沿い、この空き地のあたり」のように出店場所を仮決めしておき、その周辺商圏を調べるということです。ただ、絞り込んでもその場所に物件があるかどうかはわかりませんので、候補を複数見つけておきましょう。
既に不動産業者等から地域内の空き物件の紹介を受けている場合には、その物件を中心とした商圏を調べることになります。

3-1.タイプによる基本的な商圏

地域と同じようにケースによって異なりますが、基本的には半径500m~数kmの円形の範囲を考え、そこに交通状況、競合状況等の要因を考慮し、実際の商圏(実勢商圏)となる複雑な多角形の形状の商圏を定めていきます。
タイプによる商圏の基本的範囲は次のように考えます。

  • 都市型店舗の商圏
    半径500m圏の範囲
    周辺は、主に密集した商業施設、オフィス、マンション等。道路幅は狭く駐車場は少ない。
  • 都市近郊型店舗の商圏
    半径500m~1km圏の範囲
    周辺は、主にマンションや商業施設で、前面道路は片側1車線の生活道路。
  • 郊外型店舗の商圏
    半径1km~2km圏の範囲
    周辺は、住宅がほとんどで、前面道路は片側1車線の生活道路か、2車線の幹線道路。

 

3-2.交通状況

商圏内の道路や、線路、河川等の状況から、 仮決めした商圏が実際にはどのような「形」になるのかを判断します。商圏の「形」は実際には円形ではなく、複雑ないびつな形状をしています。
行き来しやすい道路が東西に通っていれば商圏も東西に広くなり、線路や河川があればそこで行き来が止まり易くなります。踏み切りや橋があっても道路の迂回が必要だったり、踏み切りなら時間がかかったり渡りにくかったり、というように越える為の障害がいくつもあるものです。
また、高低差のあるエリアなら低い方へ流れやすい、駅があれば駅方面へ流れやすい、といった特徴もあります。それぞれ一概にはいえず、個別の環境に合わせて見る必要はありますが、商圏は単純な「形」はあり得ないのです。

実際の商圏(実勢商圏)

商圏マップ 地区

3-3.競合状況

商圏周辺の同業種の店舗の出店状況をすべて調べ、内外装、商品、接客等から競合としての力を評価します。都市近郊の商圏であれば、洋菓子なら10店舗程度、和菓子なら5~7店舗、パンであれば10店舗以上は見つかります。
ただ、この店舗とは同じタイプの専門店だけでなく、ターゲット顧客が違っていそうな全国チェーンの店舗や、かなり小規模な店舗も含みます。ターゲットを設定しても来店するのはそのようなト顧客だけということにはならず、違うタイプの店で買っている人も多いからです。

実際に調査をすると、競合としての力が強いと評価できるのは、すべての店舗のうち20~30%程度となることが多くなります。まずはその店舗を競争相手として意識し、勝つことを考えます。

 

3-4.市場規模

商圏が設定できれば、そこでどの程度の菓子・パンの需要=市場規模があるのかを調べます。この市場規模のうちどの程度を自店で獲得することができるか、これが売上になります。
市場規模は単純な式で算出することができます。

市場規模=商圏内世帯数×1世帯あたり消費金額

  • 商圏世帯数
    このデータを調べるには、独立行政法人統計センターが運用している政府統計データのポータルサイト「e-Stat 政府統計の総合窓口」から「GIS機能(jSTAT MAP)」を使うのが、無料で取得できるデータとしては現在最も良いでしょう。
    これは、政府保有統計情報におけるオープンデータの高度化の一環として2015年1月に機能が大幅に強化されたもので、高価な商圏分析ソフトを購入しなくても、このサイトを利用するだけで十分な商圏分析を行うことができます。
    (一昔前は同様なことは数十万はするソフトを使わないと不可能でしたが、便利になったものです。)
    『簡単にできる商圏調査-商圏事例から学ぶ』ではこの商圏データを使用した事例を紹介しています。まだ機能強化前の古いGIS機能を使用したものですが、最新版を使用した事例も順次ご紹介していきます。
  • 1世帯当たり消費金額
    政府が実施している家計調査年報という調査データから得られる数値を使います。
    このデータも、独立行政法人統計センターが運用している「e-Stat 政府統計の総合窓口」から得ることができます。
    大雑把には和菓子2~2.3万円、洋菓子2~2.5万円、パン2.4~2.8万円の範囲になり、都道府県別の消費額にも差があります。

 <GIS機能(jSTAT MAP)」の画面>jstat map

3-5.フィールドワークの重要性

商圏の様々なデータはインターネットからも簡単に得られるようになりましたが、それでも実際の現場を回ることの重要性は何ら変わってはいません。
商圏内を何度も車や自転車や徒歩で回り、色々な店に入り、住んでいる人達の様子を確かめることではじめて掴めることは多いものです。開店後もこのような商圏内フィールドワークを習慣にしましょう。

 

4.出店する地点を判断する。(候補物件を探す)

地域~地区と商圏を絞り込むことができれば、あとはその商圏内で物件を探すことになります。
商圏を調べる時点で目星をつけた出店場所について不動産業者に問い合わせていきますが、既に空き物件の紹介を受けてから商圏調査を始めたいた場合は、その物件の評価となります。
物件を探すうえでは、まず、必要な売場面積や駐車場台数がどの程度の範囲かを考えておかなければなりません。当然規模が大きいほど初期投資、運営費用もかかりますので、製造能力と商圏からみた売上予測、資金調達とのバランスを取る必要があります。

商圏図マップ 地点

4-1.敷地状況、物件状況

店舗を建設する場合は、建物は自由に設計できますが、駐車場とのバランスを考えておくことが重要です。駐車台数の確保と車が入り易いような駐車場の配置を忘れてはなりません。

賃貸物件でも、駐車台数と車の入り易さが集客に影響します。物件が良くても駐車場が確保できなければ集客の大きな障害となりますので、郊外型路面店だけでなく、都市近郊型、都市型店舗でも目指す売上に応じた駐車場の確保は必須です。

4-2.前面道路

店舗前面の道路において重視するのは、来店する車が駐車場に進入し易いのか、店頭前通行客から店舗が認知し易いのかという点です。
前面道路が主要幹線道路の場合は交通量が多くなりますが、駐車場への進入が困難であったり、中央分離帯によって反対車線からの進入が不可能になる場合があります。
また、交差点角地は、駐車場の出入り口を良く考えておかないと、信号待ちの車のせいでなかなか出入りできなくなってしまいます。車の出入りで不便な経験をした消費者は「あの店は行きにくい」と悪い印象を持ち、気軽に行こうと思わなくなります。

前面道路として適しているのは、生活道路と呼ばれる、幹線道路から1区画ほど奥に入り、交通が緩やかで地元生活者がよく使用し、信号からも少し離れている道路です。

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